事業承継税制の改正ポイント
中小企業の経営者の高齢化が進んでおり、平均引退年齢である70歳を超える経営者の数は、今後10年間で約245万人に達するといわれています。しかしながら、その半数以上が事業承継の準備を終えておらず、今日に至っております。
政府は、平成21年度の税制改正で株式承継時の贈与税や相続税の負担を軽減する「非上場株式等に係る納税猶予制度」(いわゆる事業承継税制、以下「一般措置」と呼ぶ)を創設し、その後も改正を行ってきましたが、適用を受けるためのハードルが高く、利用件数は低調に推移しておりました。そこで、中小企業の経営者の交代を強力に後押しする制度として、平成30年度の税制改正にて、10年間の特例措置として事業承継税制の特例(以下、「特例措置」と呼ぶ)が創設されました。
以下、改正ポイントを解説いたします。
(1)対象株式数の上限 / 納税猶予割合
一般措置では、後継者が先代経営者から贈与や相続で取得した株式のうち、納税猶予の対象となる株式は、最大でも議決権株式総数の3分の2までで、相続税の納税猶予割合は80%であったため、猶予される相続税額は最高でも53%(3分の2×80%)にとどまっていました。
特例措置では、対象株式数3分の2の上限を撤廃し、さらに相続税の納税猶予割合を100%に引き上げたことにより、株式承継時の贈与税及び相続税の負担は、後継者が事業を継続している場合に限り実質ゼロとなります。
(2)対象者
一般措置では、1人の先代経営者から1人の後継者に贈与や相続される場合のみ適用される硬直的な措置でした。
一方、特例措置は、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人まで)への承継も対象となります。株式が先代経営者だけではなく、その配偶者や親族、第三者などに分散している会社であっても、特例措置を適用すれば、後継者に株式を集中させやすくなり、また、兄弟で共同経営したいという会社も適用できるようになるため、中小企業の経営の状況に合わせた多種多様な事業承継を支援する制度として期待されます。
(3)雇用要件
一般措置では、雇用の維持を制度趣旨としていたことから、事業承継後、5年間平均で雇用の8割を維持することが必要でした。そのため、業績悪化や人手不足などの不足時事態に柔軟に対応できないことが懸念され、制度利用を躊躇する要因になっていました。
特例措置において、このような雇用維持要件を実質的に撤廃し、満たさなかった場合でも、認定支援機関による指導や助言を受けることで、納税猶予を維持できるようになりました。
(4)経営環境の変化による減免制度
一般措置では、事業承継後、後継者がM&Aなどで会社を売却したり、廃業した場合、経営環境の変化や業績悪化などで株価が下落した場合でも、承継時の株価で計算された贈与税や相続税を遡って納税しなければならず、後継者に過大な税負担がかかっておりました。
他方、特例措置では、後継者の将来不安を軽減して制度の利用を促すために、過去3年間のうち2年以上、前年対比売上高減少や赤字に陥るなど経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合には、売却時や廃業時の株価に置き換えて贈与税や相続税を再計算し、事業承継時の株価で計算された納税額との差額を免除することができるようになりました。
(5)相続時精算課税制度の適用
一般措置では、60歳以上の贈与者から20歳以上の直系卑属のみへの贈与に関してのみ相続時精算課税制度が適用されましたが、特例措置では、後継者が贈与者の子や孫ではない場合でも、相続時精算課税制度を使って株式の贈与を受けられるように適用範囲が拡大されました。
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