所得拡大促進税制
所得拡大促進税制とは、中小企業が従業員への給与等の支給総額を前年度より増加させた場合に、その増加額の一部を法人税から税額控除する制度です。
企業が獲得した利益を従業員に還元し、個人所得を改善し、経済の安定した循環を支えることを目的としています。利益を給与として従業員に還元しつつ、給与の増加額に応じての税額控除を受けることができるため、雇用主のみならず、従業員にとってもメリットがある制度となります。
令和3年度税制改正において「所得拡大促進税制」の見直しがなされています。税額控除率の拡大と適用期限の延長がメインになっておりますが、その内容(要件)については、改正前に比べて大きな見直しが行われました。改正前に比べ要件が緩和されたため、適用できる企業が今後増加することが予想されます。
(1)中小企業者等 中小企業者等で青色申告者が対象となっておりますので、白色申告の場合は、適用を受けることができません。また、前期の給与・賞与等を比較するので、新規設立で前事業年度がない場合は適用を受けることができませんのでご留意ください。
中小企業者等とは、以下のいずれかに該当する企業をいいます。 ・資本金や出資金が1億円以下の法人(注1) ・資本等を有しない法人で常時雇用人数が1,000人以下の法人 ・常時雇用の従業員が1,000人以下の個人事業主 ・協同組合等 (注1)同一の大規模法人から2分の1以上の出資、2以上の大規模法人から3分の2以上の 出資、前3事業年度の所得の平均15億円を超える法人は除きます。 |
(2)改正前と改正後の適用要件 それでは、適用要件について詳しく確認していきましょう。 まずは改正前の適用要件を確認します。改正前は以下の①と②を満たす必要がありました。
改正前(平成30年4月1日から令和3年3月31日までに開始する各事業年度) ① 雇用者給与等支給額が前期を上回ること ② 継続雇用者給与等支給額が前期比1.5%以上増加 税額控除:雇用者給与等支給額の前期からの増額の15% |
継続雇用者給与等支給額とは、継続雇用者に支払った給与等の総額をいいます。
また、継続雇用者とは以下のすべてを満たす者です。
①前事業年度及び適用年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者である ②前事業年度及び適用年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者である ③前事業年度及び適用年度の全てまたは一部の期間において高齢者雇用安定法に定める継続雇用制 度の対象となっていない |
雇用者給与等支給額とは、適用年度の「すべての国内雇用者」に対する給与等の総額をいいます。継続雇用者に限定されませんが、役員等は除きます。 制度を適用するためには、継続雇用者に該当する従業員をピックアップし、その給与等の支給額を2期分集計して比較する必要があったため、大変な労力を要していました。
これに対し、改正後は以下の①を満たすことで適用を受けることができます。
改正後(令和3年4月1日から令和5年3月31日までに開始する各事業年度) ① 雇用者給与等支給額が前期比1.5%以上増加 税額控除:変更なし |
雇用者給与等支給額により判定をするため、改正前に比べ判定が容易となり、かなり事務負担が軽減されることになります。
また、新規雇用をした従業員等も判定に含めることができるため、企業はより積極的に新規雇用をすることができます。 なお、「令和4年度税制改正大綱」において、控除税率の上乗せ措置の見直しが行われ、適用期限を1年間延長することになりました。具体的な適用時期としては、令和4年4月1日から令和6年3月31日までに開始した各事業年度について適用されます(詳細は、次回参照)。
(3)雇用調整助成金等の取扱いについて このほか、適用要件の判定及び控除税額の計算に使用される給与等の支給額から控除する「給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額」についての範囲が明確化されました。
1、賃上げ要件を判定する場合には、雇用調整助成金及びこれに類するものの額を控除しないこ ととする。 2、税額控除率を乗ずる基礎となる雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した 金額は、雇用調整助成金及びこれに類するものの額を控除して計算した金額を上限とする。
つまり、雇用調整助成金およびこれに類するものは、改正前の取扱いでは給与等支給額から控除することになっていましたが、改正後は、適用要件の判定において控除しないものとされました。 ただし、税額控除率を乗ずる基礎となる雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額については、雇用調整助成金およびこれに類するものの額を控除して計算した額が上限となることが明示されました。
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