繰延資産の範囲と取扱い
「繰延資産」というと、資産の繰延をイメージし、前払費用を思い浮かべる人も多いかと思います。「繰延資産」は、サービスの提供を受けた費用であるものの、その効果が一年以上に及ぶものをいいます。一方、「前払費用」は、まだサービスの提供を受けていない費用である点で、繰延資産とは大きく異なります。
繰延資産は、効果が及ぶ期間にわたって費用処理するのが適切と考えられるので、サービスの提供を受けたときではなく、減価償却資産と同様に、一旦資産に計上し、一定期間で償却し費用化を図ることとなります。
なお、繰延資産には、会計基準等で定められている繰延資産(以下、「会計上の繰延資産」)と税法で定められている繰延資産(以下、「税務上の繰延資産」)があります。
(1)会計上の繰延資産
「会計上の繰延資産」は、「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」及び「中小企業の会計に関する指針」で定められており、次の5つがあります。
①創立費・・・会社設立のために要した費用
②開業費・・・会社設立後、開業準備のために要した費用
③株式交付費・・・株式を発行するときなどに要した費用
④社債発行費(新株予約権発行費を含む)・・・社債を発行するときなどに要した費用
⑤開発費・・・新技術、新市場の開拓などに要した費用
会計上の繰延資産は、任意償却です。
「任意償却」とは、好きな時に、支出した範囲内で好きな金額だけ経費にすることができます。
そのため、利益が出ている時期に経費計上することで節税効果が見込まれます。
(2)税務上の繰延資産
一方、「税法上の繰延資産」は、税法で定められた年数で経費計上することになります。
税法上の繰延資産とは、税法上定められている繰延資産です。税法とは、税金を計算するためのルールです。税法上の繰延資産のその内容と具体例、耐用年数、及び注意点は、以下の通りとなります。税法上の繰延資産は定額法で経費計上します。
繰延資産に関して、法人税の別表十六(五) 「繰延資産の償却額の計算に関する明細書」が必要となります。また、以下の税法上の繰延資産でも支出額が20万円未満の場合は、支出した年に全額経費にすることができます。
内容 | 具体例 | 償却期間 (年) |
注意点 |
資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立退料等、電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出するその他の費用 |
礼金、立退料、更新料、借入金の保証協会への信用保証料 |
“5年 |
敷金・保証金は含まない。 社宅等の場合の礼金も繰延資産として処理。 信用保証料は、繰り上げ返済の際、返金がある場合には、前払費用となる。 |
製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用 | 販売代理店に対して自社の製品の広告のための店頭看板、ネオンサイン、棚、自動車等の費用 | その資産の耐用年数の7/10に相当する年数(その年数が5年を超えるときは、5年) | 広告用のための資産を購入するために販売代理店に金銭を贈与する場合も繰延資産となる。 |
役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用 | FC加盟のための費用 | 5年 | |
自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用 |
街路の簡易舗装、街灯、がんぎ、商店街のアーケード |
公共的施設の場合①自己利用が中心の場合 施設等の耐用年数の7/10の年数 ② ①以外のもの~その施設等の耐用年数の4/10の年数共同的施設の場合 共同的施設の場合 協会等の本来の用途の場合はその施設の耐用年数の7/10 土地の取得に充てられる場合は、45年 その他は5年
|
|
上記以外に、自己が便益を受けるために支出する費用 |
同業者団体等への入会金、野球選手の契約金、スキー場のゲレンデ整備費用、出版権の設定の対価 |
5年※4 |
入会金で会員としての地位を他の人に譲渡できないものは「繰延資産」とは別に資産処理。 それ以外の入会金は、繰延資産として処理。 |
※1 建物の新築に際しその所有者に対して支払った権利金等で当該権利金等の額が当該建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、実際上その建物の存続期間中賃借できる状況にあると認められるものである場合はその建物の耐用年数の7/10に相当する年数
※2 建物の賃借に際して支払った(1)以外の権利金等で、契約、慣習等によってその明渡しに際して借家権として転売できることになっているものである場合は、その建物の賃借後の見積残存耐用年数の7/10に相当する年数
※3 電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する費用 その機器の耐用年数の7/10に相当する年数(その年数が契約による賃借期間を超えるときは、その賃借期間)
※4 ・スキー場のゲレンデ整備費用 12年
・出版権の設定の対価 設定契約に定める存続期間(設定契約に存続期間の定めがない場合には、3年)
・ 職業運動選手等の契約金 契約期間(契約期間の定めがない場合には、3年)
これらの費用については、会計上の繰延資産ではないため、会計処理においては、繰延資産として処理されるのではなく、投資その他の資産の区分において長期前払費用として処理します(中小企業の会計に関する指針)。
(3)会計上と税務上の繰延資産
会計上の繰延資産は、任意償却のため、いつでも経費に計上することが可能です。一方、税務上の繰延資産は、償却期間も決まっており、任意償却ができない点で異なります。
また、会計上の繰延資産は、(1)で見た通り、項目が決まっていますが、税務上の繰延資産は、定義に当てはまるものがあれば何でも該当する点で異なります。繰延資産と気付かないで経費計上している場合もあるかもしれませんので、今一度帳簿をご確認お願いいたします。
会社設立までに発生した会計上の創立費や、開業時までに発生した会計上の開業費は、範囲があるものの自由に経費計上が可能です。しかしながら、事務所を賃借し、オーナーへ20万以上の礼金を支払った場合は、税務上の繰延資産として、5年(賃借期間が5年未満である場合において、契約の更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかであるときは、その賃借期間)で均等償却する必要があります。
会社設立年度に大きな利益が出る場合は、一部または全額繰延資産ではなく、経費に計上した方が節税上お得だと思われます。開業準備期間の経費に関する領収書、レシートは大切に保管して下さいね。
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