引当金
企業会計の期間損益の観点から、以前は税務上も各種の引当金が認められていましたが、平成10年度の改正で大幅に整理されました。また、その後も数々の改正を経て、今般の平成30年度改正により、税務で認められる引当金は、中小企業に対する「貸倒引当金」のみとなってしまいました。
皆様は引当金とは何かご存知でしょうか?未払金や未払費用のような「確定債務」と引当金は何が違うのかを中心に解説いたします。
(1)引当金とは
発生主義会計において、費用は支出時ではなく発生時に計上しなければなりません。そのため、企業会計原則の注解18では、下記の4要件を満たす場合に、引当金を計上することとしています。
同注解では例示として、製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、賞与引当金、修繕引当金等が明示されておりますが、ここで、「製品保証引当金」について検討してみます。
アフターサービス付きで製品を販売したとき、販売後に顧客から修理の依頼があれば応じなければなりません。つまり、販売という事実(要件②)、将来かなり高い確率で(要件③)修繕費という費用が発生します(要件①)。また、その金額は過去の修理実績に基づき合理的に算定できるはずです(要件④)。従って、製品保証引当金を計上しなければなりません。
● 引当経理の4要件
① 将来における特定の費用または損失であること
② 発生が当期以前の事象に起因すること
③ 発生の可能性が高いこと
④ 金額を合理的に見積もることができること
(2)引当時点での債権・債務関係
この4要件のうち、特に注意すべきなのは、その発生が当期以前の事象に起因するという②の要件です。法律上、債権・債務の観点で考えると、顧客から修理の依頼があった時点ではじめて、債務が成立します。つまり、アフターサービス契約に基づいて、販売者には修理すべき義務が発生します。そこで、修理の依頼がある前に費用計上するのはおかしいのではないか、という見方もでてきます。
例えば、法人税です。法人税法では、「損金」について、「償却費以外の費用で、期末までに債務の成立しないものを除く」とされ、例外として貸倒れについてだけ引当計上を認めています。つまり、製品保証引当金の計上は、税務上は認められておりませんのでご留意願います。
(3)債務の成立前の費用計上
税務上に対して、企業会計では、修理の依頼があるまで(債務が成立するまで)費用を認識しないのは遅すぎる、という考え方です。顧客に販売すれば、高い確率で将来いずれ修理の依頼があるはずと考えます。
そこで、企業活動の実態を計算書に反映させるため、販売という事実に基づいて早期の費用計上が要求されます。
● 費用・損金の計上時点
税務: 債務確定時点で損金を 計上
会計: 発生時点で費用を計上
(4)未払金・未払費用と引当金の相違
① 未払金・未払費用
「未払金」・「未払費用」は、どちらも債務の成立に基づいて費用計上され る科目です。
② 引当金
「引当金」は、将来これら確定債務が生じる確率が極めて高い場合に計上される、いわゆる確定債務の予備群のような存在です。いずれ債務が確定して費用が「実現」しますが、それ以前に「発生」した時点で費用計上する際に使われる科目です。
③ ①及び②の比較
未払金・未払費用と引当金は、いずれも将来の支出が確定という点で共通しています。しかし、金額や支払期限が確定しているか否かで性格を異にしています。また、未払金と未払費用の違いは、支払期限が既に到来しているか否かにあります。
(※) 条件付債務とは、ある条件が満たされることで確定債務となるものをいいます。例えば、製品保証引当金は顧客からの修理依頼があった時点で確定債務となります。
未払金・未払費用・引当金の比較
【未払金】 【未払費用】 【引当金】
【支出性】 ・将来支出が確実 ・同左 ・同左
【支払期限】 ・到来済み ・未到来、確定 ・同左
【金額 確定性】・確定 ・同左 ・未確定
【法的 債務性】・確定債務 ・同左 ・条件付債務(※)
または債務性なし
(5)中小企業の会計処理
会計には2種類あります。大企業で行われる「企業会計」と、中小企業の「税務会計」です。
大企業では、税務以前に会計があって、税務はその後付けという考えです。 中小企業は、正しい会計を要求する勢力がないため、中小企業における目は税務署だけに向かいがちです。従って、税法の定めに従った会計を行い、損金算入が認められない引当ては計上しないというのが一般的です。
しかしながら、税務では、引当計上を認めていないのではなく、損金扱いをしないと言っているのです。正しい会計を行うために引当金を計上し、その上で申告調整にて自己否認をするのが正しい処理です。そのために法人税申告書別表4が設けられています。
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