法人化(法人成り)
最近では、科学・医療・製造技術の著しい発達や、ITの台頭により、様々なサービスを享受することが可能となりました。更に規制緩和化により、その潮流に乗って創業を目指す方々が多く見受けられます。ここでは、法人成りについてのメリット・デメリットをご紹介します。
(1)法人成りとは
法人成りとは、法人を設立し、個人事業から移行させることをいいます(以下、「法人化」という)。法人化による代表的なメリット・デメリットは以下が挙げられます。
<メリット> <デメリット>
① 金融機関・投資家・対外的な信用力が増大 |
① 面倒な登記が必要、かつ設立費用の発生 |
② 内部留保の確保、内部管理の充実 |
② 複式簿記の実施 |
③ 責任範囲が限定 |
③ 会社のお金の使用制限 |
④ 事業承継、相続対策が容易 |
④ 維持費用・事務処理の負担増加 |
⑤ 給与所得控除が利用可能 |
⑤ 重要事項決定の場合、決議が必要 |
⑥ 家族に支払った給与を損金算入可能 |
⑥ 交際費損金算入に一部制限あり |
⑦ 一定の要件により、消費税が2期免税 |
⑦ 社会保険の強制加入による保険料コスト増大 |
⑧ 経営者や家族への退職金の支払いが可能 |
⑧ 税務調査が入りやすい |
⑨ 社会保険加入による保障の充実 |
⑨ 法人住民税の均等割の負担 |
⑪ 欠損金の繰越しが9年ないし10年可能 |
|
⑫ 決算期を自由に決定可能 |
|
このように、法人化には多くのメリットがありますが、一方でデメリットも考慮して総合的に法人化の必要性を検討する必要があります。
(2)法人化のメリット
① 信用力の増加
法人になるためには登記が必要で、一定の法的制限がありますが、登記により公示され、取引の安全性や社会的・対外的信用力が向上します。更に、法人は会計上は個人の勘定と法人の経営資金との区別が必要ですが、財産管理が整備され、損益・収支が明確になり、金融機関・投資家は明確な判断ができ、融資を受けやすくなります。
法人化することにより、余剰資金の使途は制限されるため、事業遂行の原資を確保することができます。更に、社会的信用力の増加により、優秀な人材の確保・従業員のモチベーション向上といったメリットも享受できます。
② 事業承継・相続対策
法人は個人とは別人格のため、経営者が死亡したとしても後継者により法人の事業は継続されます。経営者の交代は役員変更により行われるため、いつでも経営者の交代が可能です。
また、後継者は親族に限らず外部の有能な人材を後継者とすることにより、事業承継が可能です。
③ 給与所得控除・家族従業員の給与
個人経営では、事業収入から必要経費を差し引いた所得が経営者に帰属し、給与所得としての扱いは出来ません。また、経営者以外の家族従業員の給与は専従者給与となり、一部経費の制限があり、配偶者控除・扶養控除は認められません。
一方、法人では所得(益金-損金)は、経営者個人ではなく法人に帰属し、経営者の給与は損金に算入されます。また、経営者・家族従業員は給与所得として給与所得控除を受けられ、個人の課税所得が低くなります。家族従業員の給与が一定額以下であれば、配偶者控除や扶養控除も受けることができます。
④ 消費税の2期免除
法人は創業時から2年間(基準期間)は、原則として消費税が免除されます。例えば、個人で創業して2年後に個人事業を廃止し、その代わりに法人を設立すれば、最長4年間は消費税の納税義務が免除されます。
ただし、事業年度開始の日における資本又は出資の額が1,000万円以上である法人、特定期間(※)における課税売上高が1,000万円を超える法人は、基準期間がない事業年度においても納税義務が免除されません。
(※)特定期間とは、個人事業者の場合は、その年の前年の1月1日から6月30日までの期間をいい、法人の場合は、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいいます。
⑤ 社会保険加入
個人事業の場合、社会保険は任意加入であり、加入できるのは従業員のみで個人事業主は加入することができません。法人化することで、経営者も社会保険に強制加入することになります。
健康保険では、国民健康保険より更に保険給付の面でメリットがあり、病気やケガ、出産などで仕事ができなくなった場合に、保険給付を受けることが出来ます。また、厚生年金加入は、保険料が高くなりますが、貰える年金額は老齢基礎年金に上乗せされるため、老後資金の増加といったメリットがあります。
⑥ 繰越欠損金
個人事業の場合、純損失の繰越は3年しかできません。一方、法人では青色欠損金を9年間(平成30年4月1日以後開始事業年度より10年間)繰り越すことができます。従って、多額の欠損金が生じた場合は、個人では相殺しきれない可能性がありますが、法人では長期にわたり相殺できるため、より節税効果が見込まれます。
⑦ 決算期の決定
個人の事業年度は、1月1日から12月31日と決まっており、決算期は12月ですが、法人は決算期を自由に決定することができます。従って、例えば、商売の繁忙期を避けて、閑散期に決算期にすることで、決算申告にかかる事務処理の効率化を図ることが可能となります
(3)法人化のデメリット
① 登記が必要・設立費用の増加
個人事業の場合は登記は不要であるが、法人設立は必ず設立登記が必要です。また、役員変更登記も一定期間ごとに必要となります。
設立費用は、株式会社で定款認証、登録免許税、司法書士報酬等で20万円以上かかります。
② 複式簿記の実施
個人事業では、65万円の青色申告特別控除を受ける場合のみ複式簿記が必要ですが、法人の場合は青色申告が通常であるため、複式簿記会計が必須となります。
③ 事務負担の増加
法人化すると、厳密な会計処理が求められ、事務処理が増加します。また、社会保険や労働保険の事務手続きの発生、株主総会等の開催など、事務負担が増加します。
④ 重要事項の決議
法人の場合は、意思決定に株主総会や、重要事項には取締役会の決議を必要とすることが会社法に定められています。個人事業ではこのような手間がなく、自由に決定することが可能です。
⑤ 保険料コストの増加
法人は社会保険が強制加入のため、従業員の社会保険料負担分も発生します。また、従業員を初めて雇用する場合、労働保険料も発生します。
⑥ 税務調査
法人は、個人事業者に比べて事業規模が大きくなるため、税務調査が入る機会が増加します。
⑦ 法人住民税の均等割
法人は赤字の場合であっても、また、繰越欠損金を使用したとしても、毎期法人市町村民税・法人道府県民税の均等割の負担が発生します。
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