消費税の軽減税率制度・新しい請求書等保存方式
10月1日よりスタートした消費税の軽減税率制度ですが、前回は、軽減税率制度が適用される項目について解説いたしました。今回は、前回説明が出来なかった詳細な区分(軽減税率が適用されるか、10%が適用されるか?等)について、Q&A形式で説明いたします。また、複数税率になるため日々の取引や経理事務において従来の記載事項に加え、新たに税率ごとの区分を記載した請求書等の交付や保存、税率ごとに区分した記帳などの経理が必要になります。今回と次回で更に詳しくお伝えさせていただきます。
(1)Q1:負担額はどのくらい?
中小企業や街中の飲食業などにおいては、消費税10%の増税に重い負担がかかっています。価格の増額を消費者に転嫁することができず、これまでと変わらず8%のままで対応を余儀なくされる企業も多いのが実情です。
税率8%から10%への増税で、一世帯当たり年間8万円もの負担増になります(※)。
事業者の納税額も増えます。売り上げの税率が10%で、仕入れの税率が8%の場合など、納税額が2倍になるケースもあります(下記のそば屋の例を参照)。
(※)増収分5.6兆円から「軽減」税率分1兆円を差し引いた4.6兆円を、世帯数5,800万7,536 (18年1月1日現在)で割ったもの
(例)そば屋のケース 単位:円
売上高 10,800(800) ⇒ 11,000(1,000) 少し増加します
仕入高 6,480(480)⇒ 6,480(480) 「軽減」税率で仕入高は変わらず
経費① 1,000(0) ⇒ 1,000(0) 消費税がかからない経費
経費② 2,160(160)⇒ 2,2200(200) 消費税がかかる経費
【160】 【320】 納税額は2倍
(2)Q2:軽減税率の区分は?
軽減税率制度で一番理解が難しいのが、軽減税率制度の対象となる項目です。下記の対象物はその線引きが難しい項目の例となりますが、下記以外にも多数存在します。
【8%対象】 【10%対象】
・ペットボトルの水・醤油 ・水道の水・みりん
・オロナミンC・牛肉・魚 ・リポビタンD・牛・熱帯魚
・定期購読の日刊紙 VS ・ネットによる電子版
・テイクアウト・学校給食 ・店で残した持ち帰り・学生食堂
・ビックリマンチョコ(※) ・プロ野球チップス(※)
(※)食品でないものと食品であるものを「セット売り」している商品については、「1万円以下」かつ「食品の値段が全体の2/3以上を占める」ものが軽減税率の対象となります。
(3)Q3:インボイスとは何か?
インボイスとは8%と10%の税率ごとに区分した適格請求書(請求書や領収書、納品書)のことです。制度導入は2023年10月からです。インボイスを発行するためには、課税業者となって税務署に適格請求書発行事業者の登録申請をする必要があります。インボイスが発行できないと、取引先は仕入税額控除の適用ができないため、取引を避けられることが想定されます。
そのため、インボイスを発行できない免税業者は取引からの排除を覚悟するか、課税業者になるかの選択を迫られます。
(次ページの新しい請求書等保存方式も参照のこと)
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)
④ 税率ごとに合計した対価の額(税抜又は税込)及び適用税率
⑤ 消費税額等(端数処理は一請求書当たり、税率ごとに1回ずつ)
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
A.インボイスを発行する課税事業者との取引
売上にかかる消費税(1,000)-仕入にかかる消費税(800)=納付税額(200)
B.インボイスを発行できない名税事業者との取引
売上にかかる消費税(1,000)-(該当なし)=納付税額(1,000)
(4)Q4:ポイント還元とは?
ポイント還元とは、クレジットカードやQRコードなどのキャッシュレス決済を利用した買い物にポイントを還元する仕組みのことです。実施は今月10月から9カ月間の限定となっています。
幅広い商品やサービスが対象となります。
初期投資も決済手数料も不要であり、入金は翌日という「PayPay」などQRコードを使ったモバイル決済も期間限定でキャンペーンされていますが、現状ではキャッシュレス決済の中心はクレジットカード決済です。
クレジットカードの月々の通信費、クレジット会社への手数料(上限3.25%)は事業者が負担しなければならず、決済と入金までに時間差が生じ、資金繰りにも影響が出てきます。
ポイント還元事業への参加申請をした店舗数は対象店舗の約1割に過ぎない約24万店(7月31日時点)と進んでいない状況です。
ポイント還元制度の対象とは?
対 象 | 対 象 外 | |
商品・サービス | 飲食料品、新聞、バイク、家電製品 | 自動車、住宅、商品券、切手、プリベイドカード、学校の入学金など |
事業者の条件 | 資本金5,000万円以下、又は従業員の数が50人以下の小売業 | 課税所得が過去3年間の平均で15億円を超える事業者 |
事業者の条件 | 商工組合などの中小企業団体、農業協同組合など各種組合 | 食品衛生法上の許可や料金の明示がない風俗店 |
ポイント還元率 ・中小事業者・・・5%
・大手フランチャイズ・・・2%
●新しい請求書等保存方式について
(1) 仕入税額控除の要件
従来の仕入控除の方式(請求書等保存方式)では、一定の帳簿及び請求書等(注)の保存が要件とされていましたが、令和元年10月1日から令和5年9月30日までの間は、従来の請求書等保存様式を基本的に維持しつつ、区分経理に対応するため、軽減税率の適用対象となる仕入かそれ以外の仕入かの区分を明確にするための記載事項を追加した帳簿及び請求書等の保存が要件とされます。
(区分記載請求書等保存方式)
(注)請求書等とは、課税取引の売上側の事業者が相手側に交付する請求書、納品書、レシートや
仕入側の事業者が作成し、相手方の確認を受けた仕入明細書、仕入計算書等をいいます。
図表1 制度実施前と実施後の帳簿及び請求書等の記載事項
期間 |
帳簿への記載事項 |
請求書等への記載事項 |
令和元年9月30日まで 【請求書等保存方式】 |
①課税仕入れの相手方の氏名又は名称 ②取引年月日 ③取引の内容 ④対価の額 |
①請求書発行者の氏名又は名称 ②取引年月日 ③取引の内容 ④対価の額 ⑤請求書受領者の氏名又は名称 |
令和元年10月1日から令和5年9月30日まで【区分記載請求書等保存方式】 (追加される記載事項) |
(上記に加え) ⑤軽減税率の対象品目である旨 |
(上記に加え) ⑥軽減税率の対象品目である旨 ⑦税率ごとに区分して合計した税込対価の額 |
(注)小売業、飲食店業等の不特定多数の者と取引する事業者が交付する請求書等については、
⑤の記載は省略できます。
(2)「 軽減対象資産の譲渡等である旨」等の記載がなかった場合の追記
仕入先から交付された請求書等に、図表1の⑥軽減税率の対象品目である旨や⑦税率ごとに区分して合計した税込対価の額の記載がないときは、これらの項目に限り、交付を受けた事業者自らが、その取引の事実に基づき追記することができます。
ただし、記載されている項目の修正や、その他の項目の追記は認められません。
(3) 免税事業者からの課税仕入れの取扱い
区分記載請求書等保存方式においては、制度実施前と同様に、免税事業者からの課税仕入れについても仕入税額控除の適用を受けることができますが、この場合においても区分記載請求書等の保存が要件となります。
免税事業者と課税事業者の留意すべき事項
『免税事業者』
課税事業者から区分記載請求書等の交付を求められることがあります。
『課税事業者』
免税事業者からの仕入についても、仕入税額控除を行うためには、区分記載請求書等の保存
が必要です。
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