事業承継(第三者承継)

事業承継と聞くと、まだまだ先のことと考えている方も多いかと思います。事業承継に関して、早めに対策をして、将来起こり得る事態に対応できるように準備することが大切です。ここでは、事業承継の方法のうち、第三者承継について詳細に解説いたします。

(1)事業承継問題の概要

事業承継問題は、現在日本が直面している大きな社会問題の1つとなっています。
この社会問題は、「今後10年の間に70歳(経営者の平均引退年齢)を超える中小企業の経営者は約245万人となり、そのうち約半数の127万(日本企業全体の約3分の1)が後継者未定」と試算されています。特に全企業の85%も占める年商1億円未満の事業者における後継者不在率は実に78%にも達し、このままでは地方経済や雇用に大きな影響を与えかねない深刻な状況になっています。

◆今後10年間の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営は約245万人となり、うち約半数の127万(日本企業全体の約3割)が後継者未定。

◆現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性。今後10年の集中的な取組みが必要。

※2025年までに経営者が70歳を超える法人の31%、個人事業者の65%が廃業すると仮定。雇用者は2009年から2014年までの間に廃業した中小企業で雇用されていた従業員の平均値(5.13人)、付加価値は2011年度における法人・個人事業主1者あたりの付加価値をそれぞれ使用(法人:6,065万円、個人:526万円)。

(2)第三者承継の急激な増加

このような状況の中で、事業承継においては第三者承継の割合が近年急増しています。
中小企業庁の調査では、20年前に約9割もあった親族内承継は年々減少し、直近の調査では4割を切っているそうです。一方、「社外の第三者への事業承継を検討している」と回答した事業者は、中規模企業は約4割、小規模事業者は約5割いるとの報告もされています。

① 第三者承継のメリット(対象会社)                           対象会社にとって、第三者継承は以下のようなメリットがあります。

1.企業体質の強化
a. 買主の新たな目線や強みを生かして、事業を復活させる起爆剤となりうる。
b. 強い熱意や優れた経営能力を有するような経営者に買収された場合、対象会社の事業リスクを低減させるが期待できる。
c. 対象会社や売主の資力が乏しかったとしても、買主の資力で解決できる場合がある。
2. ステークホルダーの保護
a. 従業員の雇用を守ることができる(場合によっては処遇の改善も期待できる)。
b. 取引先や取引金融機関からの信頼を回復することが期待できる。
3. 廃業を回避
a. 企業の永続性を維持することができる。
b. 第三者承継は一般的に廃業に比べてメリットが大きい(下記(3)参照)。

② 第三者承継のメリット(売主)                             売主にとって、第三者承継は以下のようなメリットがあります。

1. ハッピーリタイアの実現
a. 換金性のない非上場株式の売却を通じて現金に変換し、また同じタイミングで役員退職慰労金も受領することが多いことから、退職後の第2の人生が安泰である。
b. 売却によりいったん経営に区切りを置いたとしても、売主が希望し、買主も理解を示せば、売却後も継続して対象会社に関与をすることができる。
2. 相続対策として有効
a. 事業承継を通じて多額の現金を受領するため、将来相続が発生した場合、各相続人に円滑に相続できる。
b. 事業承継に伴い、売主個人に付された個人保証や担保権は通常解除されるため、相続関係者の安心を得られる。
3. 自尊心の充足
a. 事業承継を通じて、これまで築いてきた事業が正当に評価されるため、満足感を得ることにつながる。

 

(3)廃業問題と第三者承継について

事業承継問題に直面している企業で親族内・親族外で後継者を見つけられない場合の選択肢は2つあります。すなわち、第三者承継を行うか、あるいは廃業を選択するということです。
以下は、第三者承継と廃業について、主要なポイントは以下の通りとなります。

  廃業 M&A(株式譲渡を前提)
取引金額

・個別の資産ごとの評価となり、土地など含み益を有する資産があったとしても、足元をみられて時価よりも安い価格での売却を余儀なくされる場合がある。         

・土地建物がある場合、解体・現状回復費用が別途必要となる。

・個々の資産が株式という形で一体として評価される。この場合、公正価値で評価されることとなるが、これまで培ってきた知的資産の価値や営業権(のれん)を加算した価値で売却される。

・人気業種、人気企業といった場合には、買主が想定シナジーの一部を放棄して、取引金額の上乗せが期待できる。

ステークホルダーへの影響 従業員の雇用や販売先・仕入先との取引の面で重大な悪影響を与える(=社会的コストがかかる)。 ステークホルダーとの関係を継続できる。(従業員の継続雇用、販売先、仕入先との取引継続など)

 

 

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