生命保険での節税対策
多くの経営者の方より、「法人が生命保険での節税対策はまだできるのか?」「税制改正で節税は難しくなったのではないか?」とのご質問が増えております。 結論から言いえば、現在も法人生命保険の保険料は損金に算入することができ、賢く利用すれば節税効果は期待できると言えます。しかし、以前よりも損金取扱いに関するルールが複雑化しているため、法人保険加入の際によく吟味する必要があります。 現状の法人生命保険による節税効果について知るために、まずは現状の損金取扱いに関するルールから簡単に見ていきましょう。
(1)2019年(令和元年)税制改正での変更点
以前は、生命保険による節税効果は多くの経営者の方が利用していました。 支払った保険料を損金として計上することで会社の利益を圧縮し、結果として利益に対し課せられる法人税も少なくできる。なおかつ、解約返戻金で将来的にお金が手元に戻ってくるというのが、法人生命保険を利用した節税の手法です。 しかし、こういった節税目的での法人生命保険の活用は問題視されることも多く、国税庁から指導が入ることもしばしばありました。
そしてついに、2019年に「税制改正の通達」という形で保険業界全体に対して法人生命保険の損金取扱いに関する新たなルールが設けられることになりました。税制改正の対象となったのは、生命保険の定期保険および第三分野商品(医療保険、がん保険など)です。 税制改正の大きな変更点を簡単にまとめると、「解約返戻率が高く(=貯蓄性の高い)保険ほど契約から一定期間の間、損金として計上できる割合が小さくなった」という形です。
(2)最高解約返戻率50%超の定期型法人保険は損金取扱いを厳格化
国税庁が出した通達による税制改正は、ピーク時の解約返戻率が50%を超える場合は保険料の一部を所定の期間に渡って資産として計上し、残りを損金に計上するという内容となっています。 資産として計上する期間はそれぞれ定められており、所定の期間が過ぎると資産計上した部分を取り崩して損金に計上します。つまり、貯蓄性の高い生命保険について、契約当初は損金に計上できる金額が少なくなってしまいますのでご留意願います。 50%以上の解約返戻率の生命保険は、下記表のように3つの区分が設けられ、返戻率が高いほど資産計上額が大きくなり、損金計上の割合が抑えられています。逆に言えば、資産計上しなければいけない期間はそれぞれ定められていますが、それを過ぎれば全額を損金として計上できるということになります。加入した生命保険を解約するタイミングによっては、税制改正以前に存在したいわゆる「半損(支払保険料の半分を損金計上)」の生命保険と同じくらいの節税効果を見込めることもあります。 このように、目先の損金計上割合ではなく、解約するまでの総合的な金額で考えればまだ節税効果は見込めると考えられます。 紹介したルールのとおり、法人生命保険の会計処理は以前より複雑化しているため、加入の際には保険会社等専門知識のあるプロに相談しながら検討する方が望ましいと考えらます。
〈定期保険(長期平準・逓増定期保険)および第三分野保険に係る保険料の取扱い(改正後)〉
※1 最高解約返戻率経過後で「(当該期間の解約返戻金-直前期間の解約返戻金)÷年換算保険料相当額」の割合が 70%を超える期間があるときは、それを満たさなくなる日まで。 ※2 資産計上額については、残りの期間で均等に取り崩して損金算入する。 ※3 解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間が複数ある場合、そのうち最も遅い期間経過後とする。 ※4 保険期間が終身で保険料の払込期間が有期である保険については、保険期間の開始の日から被保険者の年齢が 116歳に達する日までを計算上の保険期間とする。
なお、以下に該当する保険等は、期間の経過に応じて、支払保険料の全額を損金算入されます。
・最高解約返戻率が 50%以下の契約 ・最高解約返戻率が 70%以下で、かつ、年換算保険料相当額(支払保険料総額÷保険期間)が30 万円以下の場合 ・保険期間が3年未満 |
(3)法人保険の第三分野商品も改正の対象
第三分野の保険とは、医療保険やがん保険などを指します。これらの法人保険は、以前は節税目的で利用されるケースが多くありました。 しかし、税制改正によって、保険期間が終身で保険料払込期間が短期の第三分野保険商品は、年間保険料30万円までしか損金として計上できないルールに変更され、30万円を超える場合には、期間に応じて損金計上が制限されました。終身医療保険の短期払いは節税対策としてほとんど効果が期待できなくなりましたが、たとえば退職金代わりとして法人から個人に名義変更をすると、資産計上していた分の保険料を取り崩して名義変更のタイミングで損金に計上することも可能です。 従って、こちらも長期的な目線で考えれば、節税効果をまだ期待できる場合があります。
(4)まとめ
法人が節税の一環として生命保険契約を利用することは、かなり以前から行われてきました。 しかし、新たな保険商品が登場する度にそれを封じ込める国税当局との争いになってきています。今後さらなる見直しの可能性もあり、本当に保険を利用した節税がいいのか、他の節税方法と比較しながら、最適な方法を選択するのが望ましいといえます。
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